「Vector」が手掛ける「Boeing 787-9」プロジェクトの最新状況が発表されました。
2026年2月26日のプロジェクト発表以来、同チームが追求してきた「究極の再現度」の全貌が明らかになりつつあります。本記事では、最新のデモンストレーションに基づく技術的な詳細を解説します。
プロジェクトの概要と開発理念

Vector 787-9プロジェクトは、従来のシミュレーター用アドオンの基準を根本から覆すことを目指しています。特筆すべきは、最初のコードが書かれる前に、チーム内で6ヶ月以上の徹底的な調査・研究期間が設けられた点です。
開発チームは、現役の787および737のパイロット、整備士、航空宇宙エンジニア、プログラマ、アーティストで構成されています。さらに、世界中の5つの航空会社から実機への継続的なアクセスを得ており、無数のシステム挙動や微細なディテールを極めて高い精度で計測・研究し続けています。
開発哲学は、「システムを擬似的に再現したり、計算結果だけをシミュレートしたりするのではなく、回路図レベル(schematic level)でゼロから構築する」というものです。これにより、機体全体が独立したプログラムの集合体ではなく、相互に影響し合う一つの有機的な環境として再現されています。
回路図レベルのシステム・シミュレーション
本プロジェクトでは、数千に及ぶ監視パラメータとセンサーデータが、機体環境のあらゆる側面にフィードバックされています。
これには飛行制御、エンジン、油圧、電気、燃料、着陸装置、環境制御、ナビゲーション、アビオニクス、客室システム、そして機体ヘルスモニタリングが含まれます。
具体的なシミュレーションの深度を示す例として、以下の点が挙げられます。
- 燃料システム: 燃料は単なる数値データではなく、仮想的な物理特性に基づき、パイプ、バルブ、ポンプの中を実際に流れます。バルブの閉鎖やエンジン停止によって流れが止まった際も、燃料はシステムやパイプ内に残存し、それが論理回路や機体の挙動にリアルタイムで影響を与えます。
- コックピット酸素マスク: コックピット内の酸素マスクにあるテストボタンを押すと、機体タンク内の酸素残量が実際に減少します。このテストを繰り返すと、飛行後半で酸素が欠乏するといった詳細な論理まで実装されています。
- システム表示: これらの複雑な挙動は、実機同様の「Synopticページ(系統図ページ)」や「Maintenanceページ(整備用ページ)」にリアルタイムで正確に反映されます。
アビオニクスとFMC(飛行管理コンピューター)の再現

CDU、EFIS、MCP、FMC、TCAS、CPDLC、そしてVSD(垂直状況ディスプレイ)を含む主要なアビオニクスは、実機の動作を熟知したチームによってゼロから再構築されました。
FMCは、実機の全ページ、全機能、全能力を網羅しています。ここでは実機の運用上の制限も忠実に再現されており、例えば1ルートあたりのウェイポイント数は実機と同じ「149個」が上限です。これを超えて入力しようとすると、実機同様に「ROUTE FULL」のメッセージが表示されます。
また、自動飛行システム(AFDS)のLNAVおよびVNAVも完全に独自開発されています。現在は、787特有の飛行特性や制限事項を完璧に再現するための最終的な微調整段階にあります。
二つのタブレット:EFBとVpad

機体には、役割の異なる2種類のタブレット端末が搭載されており、実機の忠実な再現とシミュレーターとしての利便性が明確に分かれています。
- Boeing純正EFB(電子フライトバッグ)
- パフォーマンス計算、Terminal Charts(空港チャート)ページの表示。
- Enroute Progress(航路進捗)のモニタリング。
- 単位変換(速度、重量、燃料、タイムゾーンなど)、ストップウォッチ、計算機。
- 実機同様の読み込み時間、シンボル表示、操作ロジックの再現。
- Vpad(Vector独自タブレット)
- SimBriefおよびNavigraphとの高度な連携。
- 加速されたボーディング(搭乗)、燃料補給、およびIRS(慣性基準装置)整列機能。
- ドアの開閉管理、ボーディングブリッジの接続設定。
- 照明オプションの設定、地上支援業務(GSE)の操作。
- 機体のロード状態(質量管理)の設定など、QoL(利便性)向上機能。
ビジュアル、飛行モデル、およびチェックリスト

ビジュアル面では、電子調光窓(Electronically Dimmable Windows)の再現や、貨物室、客室の細部、着陸装置の細かな機構に至るまで妥協なく作り込まれています。今回の発表では、ルフトハンザ航空の「D-ABPA」機体が外装プレゼンターとして採用されています。
- チェックリストと起動: 約700ページに及ぶチェックリストは、実機の訓練ツールとしても通用する精度で作成されています。システムの起動プロセスも実機に忠実で、バッテリーを入れ地上電源を接続してから機体が完全に立ち上がるまでには、実機同様に数分を要します。
- 飛行モデルと重量感: 複合材翼特有の「ウイングフレックス(翼のしなり)」は、速度、荷重、天候、機体動作に応じて動的に変化する独自の物理シミュレーションを導入しています。また、タクシングや離着陸時には、スライドするような感覚ではなく、地面にしっかりと接地した大型ワイドボディ機特有の「重量感」を重視した挙動を示します。
リリース計画と今後の展望

開発チームは、「リリース時に未実装の機能や、将来実装予定のプレースホルダーは存在せず、最初から完全な状態で提供される」ことを強く宣言しています。
現在のリリース目標は2026年後半であり、開発は計画通りに進行しています。今後数ヶ月にわたり、別のシステム、別の技術、あるいは機体の別の領域に焦点を当てた詳細報告「SPOTLIGHT」アップデートが継続される予定です。
コメントを残す